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【祝・芥川賞】《火花》ピース又吉・言葉選びの魅力とほとばしる生命感。謎のジャンプと「僕はおそらく殺される」!?

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「僕はおそらく・・・殺されるだろう」

 お笑い芸人ピース又吉直樹氏の『火花』が芥川賞を受賞した。

羽田圭介氏の『スクラップ・アンド・ビルド』とのダブル受賞となる。

 

 個人的に又吉氏が気になり始めたのは、もう何年も前。

まだピースがテレビに出始めだったであろうころに

一発ギャグを求められときのこと。

 

 又吉氏が無表情のままその場でぴょんぴょんと飛び跳ねながら一言、

「僕はおそらく・・・殺されるだろう」。

 

 衝撃的な言葉と謎すぎる奇妙なジャンプの組み合わせ、

彼の若干暗い不思議なイメージと相まって大爆笑。

言葉選びが秀逸さと特徴的な暗さが独特な世界観を作り上げるのだ。

 

 

それ以来、笑いのツボの合う会社の同僚と

「今日寝坊して髪型が又吉先生っぽくなっちゃった」などと笑い合った。

 

 調べてみると、どうやら2010年11月23日にオンエアされた

「踊る!さんま御殿」でこのギャグをやっていた様子。

 

しかし冗談で言っていた又吉「先生」に本当になってしまうとは・・・。

 

 

「芸人小説」レベルを凌駕する典型的正統派純文学、その中にほとばしる生命力に才能を感じる

『火花』は売れない芸人と才気あふれる先輩との交流を通して

生きていく上での葛藤を描いた、青春小説。

 

 又吉氏が太宰治を尊敬していることは周知の事実だが、

太宰を彷彿とさせる心情を緻密に描いていく秀逸な文章、するどい観察眼。

 

だけど全体を覆う少し重めの雰囲気を時々すっとばすような笑いも組み込まれており、

そのあたりはお笑い芸人ならではである。

 

 文体はとにかく正統派の純文学。

卓越した文章力はかつての文豪の雰囲気をかもしだす。

しかしこの作家の魅力はそれだけではない。

 

まさに火花が散るようにきらめき激しく燃え尽きる

「僕」と「先輩」の刹那に輝く人間関係が真正面からリアルに描かれ、

読む者をゾクゾクさせる。

 

作品全体に息づくような生命力、ほとばしるエネルギーを感じるのだ。

これは文章力だけでは出せない、大いなる才能である。

(余談だが、死神と言われていたのに!)

 

「ただものでない純文学感」がゾワっと湧き上がってきて、

静かな興奮と共に「ああ中途半端な作品でなくて良かった」という安堵感が沸き起こった。

もともと芸人として好きだった又吉氏がうすっぺらな作品を書いていたとしたらショックだと心のどこかで危惧していたからである。

 

5年前にテレビの中で飛び跳ねていた芸人さんが

「芸人が書いた小説」というレベルではない本格的大型新人として登場したことに、

ページをめくりながら興奮していた。

 

 選考には不利と言われていた

ちなみに芥川賞は無名・または新人作家の純文学作品が対象で

同時に選出される直木賞は無名・または新人作家の大衆文学作品を対象とするという違いがある。

 

 しかしこの純文学としてはベタで典型的な展開は

「新しい取組がない」という点で受賞は厳しいのではないかと言われていたらしい。

 

 もうひとつ言われていたのは、

不慣れな故の時々見受けられる「気取りすぎた表現」がマイナス要因になるという点。

う・・・確かにごくたまーに「カッコつけちゃってる感」が出てしまっている箇所があったような気もしますけど・・・。

それが「新人故の甘さ」なんだとか・・・

うーむ、個人的にはほとんどは情景が浮かぶほどすっと入ってくる秀逸な文章で、

気になる部分はごくわずかだった印象。

敢えていえば冒頭の数行か?

 

 単独受賞は難しいだろう、W受賞ならひょっとしていけるのではないかとの意見も多く、

何とか受賞してほしいなあと発表を待っていたところ、このうれしいニュース。

なんだか勝手にほっとした。

 

又吉さん、本当によかった。

 

 自分自身最近読書から離れがちになっていたがこの明るいニュースをきっかけに

、羽田さんの作品や他のノミネート作を読んでみるのもいいかもしれないと思った。

簡単に「太宰を彷彿とさせる」とか言ってしまったがちょっと自信がないので

太宰の作品も読み返してみたい気もしている。

 

 一人のお笑い芸人が多くの人に「読書」のきっかけを与えているのだから、

それだけで本当にすごいことだ。