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【太宰超えピース又吉】古舘伊知郎は読まずに批判で炎上?太宰は芥川賞落選で直談判!

古舘氏の感想は読んでいないとしか思えない

 お笑い芸人「ピース」の又吉直樹氏が処女作『火花』にて芥川賞を受賞した。

もともと又吉氏の芸風が好きだった者としては、前回記事に引き続き本件を取り扱っていきたい。

7月16日放送の「報道ステーション」にて古舘伊知郎氏が『火花』の芥川賞受賞を批判するような発言をしており、炎上しているという。

 

芥川賞本屋大賞の区分けがなくなってきた感じがするんですけどね」

「時代が違うといえばそれまでなんですけどね」

「僕らの年代は『あれっ?』ていう気もするんですけどね」

 

放送は見ていなかったが、ネットニュースによると古舘氏は同番組で上記のような発言をしたという。

 

私の素直な感想としては、「読んでないくせに類推で発言するな」である。

彼が『火花』を読んだのかどうかは定かでないが、

読んでいれば上記のような発言は出ないだろう。

 

 

前回の記事にも書いたが、『火花』を読んだうえで感じた作家・又吉直樹の魅力は

過去の文豪を彷彿とさせるような文体の典型的純文学作品でありながら

作品全体にほとばしる輝く生命力を息づかせる力である。

 

まだ粗削りな部分もあるという人もいるが、

多少読書の習慣がある人であればこの作品が

「ちょっと文章力のある芸人が書いた小説」というだいたいの人が想像するレベルを

はるかに凌駕しているのはすぐにわかるはずだ。

 

古舘伊知郎という人はこの発言時点ではほぼ確実にこの作品を読んでいない。

だから『火花』を「ちょっと文章力のある芸人が書いた小説」としての

《記号》としか捉えていない。

 

なるほど話題性のある作品を選出すれば読書人口が増え、文学界が活性化する。

そのために方向性を変えてまで

権威ある賞が若者に迎合したというストーリーは説得力もある。

 

正直十数年前に若い女性が選出されたときは、作品を読んだうえで

「話題作りでの選出では?」と思わずにいられなかったことは自分にもある。

 

今回も2作品選ばれているので、

話題性のある又吉氏を何とか受賞させるためという感じもしないことはない。

 

 だが、それは『火花』があくまで話題作り程度の

「ちょっと文章力のある芸人が書いた小説」であった場合に成り立つ話。

 

記号化されたうわべだけを見て常識人的な批判をしたつもりが

読んでいないのがバレバレというみっともない結果になっているのは大変残念だ。

 

古館氏も人間だから報道されるすべての知識を持っていろとは言わないが、批判するなら少しは責任をもって批判してほしいものだ。

 

なお、発言はまるで「本屋大賞」を軽視するかのようにも読み取れ、その点も批判が集まっている。

 

 

太宰治芥川賞に直談判していた

ところで、爆笑問題太田光氏が「太宰超え」と祝福を送った。

言うまでもなく又吉氏が心酔する太宰治のことだ。

 

この大文豪は芥川賞をギリギリのところで逃しているが、

その際意外なことに太宰はなんとか受賞させてほしいと直談判していたのだという。

 

 1935年に芥川賞が創設され、デビューしたばかりの太宰も候補者になったが惜しくも落選、

その際に選考委員だった川端康成に「私生活がダメだから落選だ」と酷評され、

激怒して抗議文を送っている。

 

当時太宰は女癖も悪く、自殺未遂をしたり麻薬の一種である

パビナール中毒症にかかっていたことを指しているようだ。

 

しかし川端も芥川賞落選の理由として

私生活を指摘するとは太宰の怒りも理解できるが、

太宰も太宰で川端に対し

「刺す、大悪党だ」などと過激な表現して物議をかもしている。

 

その後も選考委員である佐藤春夫

「私を助けてください」といった内容の懇願の手紙を何度も送っているらしい。

 

薬代の借金もあったため太宰は賞金500円を熱望していたのだろうとのこと。

あまりにもしつこく懇願を続けたためか相手にもされなくなり、

後世に残る名作『晩年』は芥川賞候補作にノミネートすらされなかったという。

 

歴史に残る大文豪にしてはなんだか情けない意外なエピソードだ。

 

『火花』で力を使い果たした?次回作は?

 さて、気になる次回作は書かれるのか。

 

これに関しては本作で

「今までためてきた書きたいこと、エネルギーをすべて使い切ってしまったのではないか」という声もある。

あながち間違いではないだろう。

 

『火花』は自伝的小説であり、

又吉氏自身の職業である「お笑い芸人」が作品のモチーフだからこそ

あれだけリアリティ溢れる描写ができたという点は否めない。

これから全く異なる境遇の主人公を創造し、同様のクオリティで書き上げることができるのか。

 

選考委員の山田詠美氏は

「受賞後第一作を読んで、選考委員の私たちが選んでよかったと思えるような、

そういう気分を味わいたいなと思います」と発言した。

 

これは又吉氏自身も不安に思っていることだろう。

 

しかし彼は会見の中で次回作について問われたとき

「恥をかいても書きます」とはっきりと言った。

 

「恥をかく」つまり、『火花』を上回れない可能性を十分認識したうえで、

次回作を制作することを断言したのである。

 

『火花』で心を熱くした一読者としては、

次回作にも独特の輝きが宿ってることを期待するばかりである。